温水式床暖房に組み入れる循環ポンプの選定ポイント
※2019年4月11日に公開した記事を校正し直し2023年3月17日に再度公開いたしました。
流量と揚程の要求を満たす
温水暖房回路には配管、継手、バルブ、ストレーナなど、温水暖房の循環回路には複数の部材があり、それぞれに圧力損出が発生します。その為、それら部材がどれくらいの圧力損失があるかをある程度予想して計算しなければいけません。このとき、例えば放熱端末に「温水式床暖房マット」を使ったシステムであれば、部材が少なくて済むのでそれらの圧力損出を考慮する必要が薄れます。たいていは熱源機内蔵の循環ポンプの能力に収まり、ユーザーも快適に過ごしていると考えがちです。しかし、配管距離が長い回路や上層階への送り込む回路がある戸建住宅においては、循環不良による温度ムラが発生する恐れがあるので、システムが要求する流量と揚程を確認しておく必要があります。
まずはシステムが要求している流量を求める
ここでいう「要求している流量」とは、放熱端末である「温水式床暖房マット」の仕様書に規定されている流量を満たす時間当たり送水量と考えてください。L/minや㎥/Hなどで表されています。要求している流量を下回ると、温水式床暖房マットが設計出力を発揮できず、温まらないなどの熱量不足クレームを引き起こします。
求め方はとてもカンタンです。システムに使用する温水式床暖房マットの仕様書に記載のある標準流量をすべて足し算するだけです。例えば、標準流量4L/minの温水式床暖房マットを5枚使用するシステムの場合、要求流量は20L/minとなります。
次にシステムが要求している揚程を求める
ここでいう「要求している揚程」とは、配管の摩擦係数、温水式床暖房マットの流体抵抗値、液面高低差による位置エネルギーの差である実揚程を合計した全揚程と考えてください。全揚程と循環ポンプそのものの吐出能力の比較により選ばなくてはいけません。
液面高低差については、1mの高さに水を上げるのに10kPa程度の圧力が必要です。この段階でkPaに読み替えておくことで、配管や部材の流体抵抗値との合算が楽になります。もちろん、システムが要求している揚程よりポンプ揚程が小さいと循環不良クレームにつながります。
全揚程=(配管の圧力損失)+(液面高低差による圧力損失)+(温水式床暖房マットの流体抵抗値)
圧力損失も求めるために必要な情報
あらゆる配管を循環液が流れるときに抵抗が掛かります。これが配管の圧力損失で摩擦損失水頭とも呼びます。圧力損失を求めるには前項で調べた流量と管種ごとに用意されているグラフや資料が必要です。
各回路毎の圧力損失を求めていく
前項のグラフを参考に流量に応じた各回路ごとの①摩擦損失水頭を入れます。さらに①と②配管長を掛けると③の各回路の配管だけの圧力損失が求められます。そこに④の高さと⑤放熱端末の圧力損失を加えると各回路全体の圧力損失が求められます。この中で最も数字の大きい回路の値がシステム全体の圧力損失(揚程)となります。
管径 | 流量 | ①摩擦
損水水頭 (kPa/m) |
②配管長
(m) |
③配管
圧力損失 (kPa) |
④高さ(m=10kPa) | ⑤放熱端末
圧力損失(kPa) |
枝管合計
圧力損失(kPa) |
10A | 4L/min | 1.3 | 14 | 18.2 | 0 | 30 | 48.2 |
10A | 4L/min | 1.3 | 8 | 10.4 | 3 | 18 | 58.4 |
10A | 4L/min | 1.3 | 15 | 19.5 | 0 | 17 | 36.5 |
7A | 4L/min | 6 | 5 | 30 | 0 | 20 | 50 |
7A | 4L/min | 6 | 7 | 42 | 0 | 16 | 58 |
7A | 4L/min | 6 | 4 | 24 | 0 | 16 | 40 |
温水式床暖房用循環ポンプ選びのポイント
不凍液に対応した循環ポンプが必須
流量や揚程を求め、いざ循環ポンプを選ぶというときにも温水暖房用途であれば循環回路を流れる不凍液に対応したポンプを選ぶことがポイントです。循環液にはグリコールと水だけではなく防錆防食添加剤が含まれているため、不凍液に対応したポンプでないと駆動部に堆積したり、細かな粒子による不具合の原因となります。
システムの流量と揚程を満足する循環ポンプを選ぶ
循環ポンプには、選定図や性能曲線図といった能力を記した表があります。この図を参考にして、必要な揚程、流量を満足する機種を選定します。
ここでは縦軸が揚程で横軸が流量を表しています。
小型温水循環ポンプUPS
品番 | オスねじ | ユニオン | 基準価格 |
UPS20-30N150 | G1-1/4 | Rp3/4 | ¥52,800 |
UPS25-60-180 | G1-1/2 | Rp3/4 | ¥47,000 |
UPS25-70-180 | G1-1/2 | Rp1 | ¥52,800 |
UPS32-80-180 | G2 | Rp1-1/4 | ¥63,800 |
例題:圧力損失が60KPaで25L/minの温水暖房システムに対応する循環ポンプはどれですか?
まず縦軸の揚程を確認します。60KPa=6mですから、該当するのはUPS32-80です。次に横軸の流量範囲を確認すると25L/minはいずれの循環ポンプでもカバーできることが分かります。よって、圧力損失が60KPaで25L/minの温水暖房システムに適合する循環ポンプはUPS32-80と判断できます。
まとめ
放熱端末に「温水式床暖房マット」を使った温水暖房システムでは、たいていは熱源機内蔵の循環ポンプの能力に収まると考えがちです。しかし、配管距離が長い回路や上層階への送り込む回路がある戸建住宅においては、循環不良による温度ムラが発生する恐れがあるので、システムが要求する流量と揚程を確認しておく必要があります。システムの要求を満たせない場合、別途、循環ポンプを手配してください。循環ポンプを選定する際は、選定図や性能曲線図といった能力を満たしているだけでなく、不凍液への対応を確認する点も重要なポイントですのでご注意ください。
大宮彰大
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